実際の通っている子どもの実例


幼稚園年中児から通っている現在3年生のR君

(多動+自閉症スペクトラム)

幼稚園での集団生活は難しかった。私立の幼稚園に行っていたため加配の先生が十分につかなかったこともあり、勝手気ままに過ごしてしまうことが多かった。そのため、小学校に入った時も、数カ月は教室からすぐに出てしまい、学校内を探索していた。動きが早かったので、先生も止めることは難しく、ただ見守り教室に帰ってくるのを待った。しかしR君がこの教室で出来る課題、逃げてしまうR君への関わり方などを学校側にお伝えしていくことで、1年生2学期には教室に居る時間が増えてきた。今では、教室から出ていくことはほとんどない。

療育に来たばかりの年中さんのころは、多動もあるR君は5分ごとに立ち上がる、一度立ち上がるとなかなか座れない様子が見られた。タイムタイマーという目で時間の経過が見える時計を使い、5,10,15分と座ることを練習し、座ることに慣れてくると、課題にも集中できるようになってくる。それでも、年長になってからも、自分から席に着くというよりは、こちらが何度も声をかけ誘導してやっと席に着くという様子。そのうち、好きな課題を机に置いておくと自分から座るようになる。この頃は、好きではない課題が出されると素早く席を離れることが見られた。

数字とひらがなは、興味を持てる子どもが多いので、興味が持てる子どもには小学校に入った時に楽しめるようにあの手この手で覚えてもらう(笑)早くに療育を始めることの良さはここにあるのかもしれない。幼児期に、数字とひらがなを知っているのと知っていないのでは後々の学習に差が出てしまう。というのは、小学校では、まずそこを基準に子どものその後の取り組み、課題、学習を考えるからだ。そのため、年中、年長までに来れる子どもには、早めに数字を知ってもらう課題をたくさん用意する。見て分かりやすい数字は自閉症スペクトラムの子どもには楽しめる課題になる。

そうしてR君は、年長でも二語文で話すことも難しく、一語でコミュニケーションを取っていたが、数字が大好きになり、ひらがなも書けるようになり、1年生では分かりやすさから簡単な漢字は覚えることもできた。1年生終わりでは、漢字の読みに関しては、80%できていた。

数字とひらがなに関しては、空間認知が弱い彼は、模写することがとても難しく、書けるようになるまで、何百枚の数字プリントをした。1-10まで何回書いたか知れない。ひらがなも来る日も来る日も、あいうえお表のマッチングで一字ずつ見て覚えた。しかし、これは本人が好きだったので、進んですることができた。漢字も、フラッシュカードでめくり、絵と字を合わせて見ていくことで視覚からインプットすることが出来た。これも、自ら手に取りめくって覚えていった。(この頃はそんな彼の様子に驚き感激したものだった)

1年生になる頃は、教室に来ると、自分で椅子に座り学ぶことが楽しくなり、次々と用意された課題をこなせるようになる。ただ、足し算の概念がどうしても入らなく、本人もできないことが大嫌いで悔しくて、一時、学習することに抵抗をするようになる。学校でもこの頃、同じような状態が続く。このように本人が躓くときはセラピーのアプローチ、やり方の改善を上手くいくまで試みる。彼が学習が苦手だと思うのは、こちらのアプローチのせいだ、と指導者は認識することが大切だと思う。そして、その子に合う学習方法を見い出して、大事なことは周りに理解者が増えることです。また集中して課題に取り組めるようになるとき、その子にだけでなく、指導者側にも大きな達成感が得られる。

小学校高学年、中学生で学習ができなくなりました、という子どもの多くは、この出来なくなった時で止まってしまう。彼らの抵抗は時にとても強いので、学校の先生もあきらめざるを得なくなる。そして「この子には難しいんだ、できないんだ」と思ってしまう。本当は、分かるように教えて、という抵抗だったのに…

3年生にもなると、いろんなアプローチをしてみるが、子どもが足し算を見るのも嫌なぐらい拒絶反応を示すとき、まずは、簡単な今までできていた簡単な数字に戻ってさせる。引き算も簡単な計算(10以下)だけは同時にさせてみる。そこまでは良かった。簡単な計算は抵抗なくできるようになった。しかし、どうしてもそこから先に進めない。では、どうしたらいいか?時間がもったいないと判断し、足し算は毎日通う学校でとにかく簡単でもし続けてもらうことをお願いする。そしてセラピーでは、お金を意識し、10,100,1000という大きな数の学習を始める。これも本人が嫌がらない限り、繰り返し繰り返し、分からなくなる時は、イライラする前に教えながら取り組む。10から100まで数えられるようになった。(10,20・・・100)まだ3年生、されど、もう3年生、いつかお金を持って必要なものは買えるようになって欲しい。大きなゴールはいつも考えなくてはいけない。時計の練習も様々な形でしている。まだマスターしていないが、ずいぶん、分かるようになってきた。

子どもによって、対応は違うが、R君のケースは近道を探す、こと。お金が分かるようになれば、足し算の意味がそこで入るかもしれない。概念はあとでついてくることも自閉症スの子ども達にはよくあることだ。だから止まってはいけない。先に進んでいってあげると、子どもも新しいことが出来る喜びを知る。一つ二つ躓いたら、別の道を探す。常に彼らに合う道を探して、一歩一歩と必ず上がっていけるようにすること、この道しかないという指導者の頭の固さは子どもの発達の妨げになってしまう。Aの道、Bの道、幾つでも道はあり、どの道からでも上に進めるのです。これは私の今までの経験から学んだことです

現在:R君は、去年末から新しいアプローチを使っている。1-10の数字を貼り、10のところにゴールを貼っておく。一枚プリントができると、1を外し☺ ステッカーを貼る。これを使うようになり、集中力がアップした。このアプローチも、R君には適切だが、どの子にも使えるものではない。しかし、ゴールという言葉やステッカーの顔が好きな彼にはドンピシャだった。数カ月たつので、そろそろ飽きるかなと思うのだが、今も自分で一枚終わるとステッカーを貼ってくれる。このアプローチで集中力が付いたせいか、今までより、している課題への理解が早くなり、新しい課題にも次々に取り組めている。

来年度は4年生、社会性を育てることも目標で、家庭にも、「今よりも頻繁に買い物に行く、指示された物をかごに入れる、お金を払う(お金を見る機会、お金に触れさせる)、などのお手伝いをお願いする」予定である。また、身の回りのことは自分で出来る半面、下着が少し濡れるだけでも、人前でズボンを下げてしまうというこだわり行動が見られるので、このような行動は「してはいけない」ことを強く厳しく伝えるようにしている。将来を考え「しません」ときっちり伝えることも時には必要である。(もちろん、この伝え方も個人個人違う)

ありのままでいて欲しい、しかし「してはいけない」行動は子どもの時にしっかりと教えてあげなくてはいけない。明確に丁寧に繰り返し伝えていくと子どもは必ず理解できる。伝え方も大事だろう。時に視覚支援を使うことも理解の手立てになるかもしれない。